フィル・ウッズPhil Woodsの名演、名盤を探す・若きパーカー派の旗手からアルトサックスの巨匠へと昇りつめた男
フィル・ウッズ(Phil Woods、1931年11月2日 – 2015年9月29日)
白人でしたがハードバップ期から長く活躍したパーカー派のアルトサックス奏者でした。
活動期間が長いため多くの録音があります。但しいつも人気があって演奏のチャンスに恵まれ続けたわけではありません。それなり苦労があってヨーロッパに渡った時期もありました。アメリカでは仕事がなかったからです。
その後、アルトの音色、奏法に磨きをかけ、もはや、だれも追いつけない「アルトの巨匠」にまで到達した人だと思っています。
アルト吹きにとって「ウッズのよう・・・」と呼ばれることが最大の誉め言葉になったのではないでしょうか。
便宜的に
・若い頃
・ヨーロッパ期
・その後 の3つの時期に分けたいと思います。
◆長いモノになりましたので、手っ取り早くウッズの凄さを知りたいという方は
2・2・1の 若かりし日 か
3・1 ミュージック・デ・ボア 辺りから聴かれても良いかと存じます。
若い頃
ウッドロア Woodlore
1955年ウッズ24歳の録音です。
Be My LOve
Slow Boat to China
Phil Woods (as)
John Williams (p)
Teddy Kotick (b)
Nick Stabulas (ds)
● パーカー派らしく良く鳴る音でスムースな演奏。ウッズは若い時から明るさが特徴的だったことが分かります。
ウォーム・ウッズ Warm Woods
1957年ウッズ25歳の演奏です。
このアルバムはウッズ初期の名盤として認知されています。
Easy Love
Gunga Din
Phil Woods (as)
Bob Corwin (p)
Sonny Dallas (b)
Nick Stabulas (ds)
● 有名曲、スタンダードが並んでいます。若い頃からウッズは哀愁味を聴かせるタイプではなく、明るく歌うタイプのアルトだったと思います。黒人で言えばキャノンボール・アダレイが近いでしょうか。
フィル・トークス・ウイズ・クイル Phil Talks With Quill
これも’57年の作品、同じ白人アルトサックスのジーン・クイルとの共演です。
Doxy
Dear Old Stockholm
● アルトが2本になると掛け合いやアンサンブルも出来て楽しさがグッと増すと、筆者などブラスバンド部出身者は思うのです。
ヨーロッパ時代
1968年にヨーロッパに渡ったウッズですが、
フランスのミュージシャンとの共演・録音のチャンスに恵まれます。
What Happens?
同じくヨーロッパに来ていたアート・ファーマーと組み、フランス最強のリズム隊のサポートを得て作られた貴重な録音がこの”What Happens?”です。アルバム・タイトルは1曲目に演奏されるミシェル・ルグランの曲”Watch What happens”から取ったものです。
Watch What happens
Art Farmer (flh)
Phil Woods (as)
Martial Solal (p) マーシャル・ソラール
Henri Texier (b) アンリ・テキシェ
Daniel Humair (dr) ダニエル・ユメール Recorded on 12 Octobre 1968
Blue Bossa
● この録音の後、ウッズはE.R.M(ヨーロピアン・リズム・マシーン)を結成することになるのですが、その前の前哨戦のようなアルバムに(結果的に)なりました。
面白いのはウッズが勢いに乗って燃えるのは分かるのですが、普段は温厚で穏やかなファーマーです。
ウッズの意気込みとフランス・リズム隊の煽りに乗せられるようにファーマーも燃えています。こんなファーマーは他では聴けません。
ここでファーマーが燃えるような演奏に目覚めたかと言うと、そんなことは無く、ERM結成でヨーロッパ中を興奮の坩堝に巻き込むウッズと違って、アメリカに帰りいつもの温厚な紳士に戻るファーマーでありました。
という訳でこのアルバム、聴き所満載の珍しいものとなりました。
Alive And Well in Paris / Phil Woods and His European Rhythm Machine
そして68年11月に録音されたこのアルバムは記念碑的なものになりました。 上のアルバムと異なるのはフランス最強リズム隊のピアニストがマーシャル・ソラール→ジュルジュ・グランツに変わったことです。
1曲目を聴いてください。
若かりし日 And When We Are Young
この曲は Dedicated to Bob Kennedy すなわちロバート・ケネディ司法長官に捧ぐと記してあります。
Stolen Moments
●ウッズのアルトは良く鳴るというだけではなく、それを超えて、ほとばしる情熱を感じさせるようなものだったと思います。
このヨーロッパ時代から単なるパーカー派アルトではなく、ウッズ・スタイルを確立し、もやはだれも追いつけない「アルトの巨匠」へと昇っていったように思います。
その後
その後のウッズは米欧を往復しながら活躍を続けたようです。
ミュージック・デ・ボア Musique du Bois
これは1974年の完成度の高い意欲作です。
Samba DuBois
The Summer Knows
Phil Woods;Alto Sax
Jaki Byard;Piano
Richard Davis;Bass
Alan Dawson;Drums
Recorded Jan. 14, 1974
●上の曲もルグランの曲ですがミシェル・ルグランとのコラボレーションについては個別に記事を書いていますので、よろしかったらご覧ください。
聴きやすくて楽しいジャズ:Phil Woods Plays Michel Legrand (フィル・ウッズ・プレイズ・ミシェル・ルグラン)⇒
ポップスとの共演
以下のようなポップスとの共演もやって成功を収めました。
参加アルバム(一部)
- スティーリー・ダン『うそつきケイティ』 – Katy Lied (1975年)
- ポール・サイモン『時の流れに』 – Still Crazy After All These Years (1975年)
- ビリー・ジョエル『ストレンジャー』 – The Stranger (1977年)
- ベンジャミン・コッペル Pass the Bebop (Cowbel) 2006年
- 平賀マリカ『バトゥカーダ~ジャズン・ボッサ~』 – Batucada: Jazz’n Bossa (2008年)
1曲だけ、ビリー・ジョエルを聴きましょう。
Live From the Showboat
1977年のアルバム、Live From the Showboat です。
吹きまくり状態からさすがに少し味わいのようなものが出てきたアルバムです。
(吹きまくりがウッズの良さでもあった訳ですが)
A Sleeping Bee
Cheek to Cheek
こんな激しいチーク・トゥ・チークは後にも先にもないでしょう。
How’s Your Mama (Phil’s Theme)
Phil Woods : Saxophone
Harry Leahey : Guitar
Mike Melillo : Piano
Steve Gilmore : Bass
Bill Goodwin : Drums
終わりに
まだこの後もウッズのアルト人生は長く続くのですが、とりあえずこの一文はここで終えることにします。
これ程アルトサックスという楽器を鳴らしまくったのはキャノンボール以来でしょう。
キャノンボールは若くして亡くなったので、吹いた総量(?)はウッズが遥かに上回るでしょう。
もしMLBのように「最高アルトサックス吹奏量」というのがあったとするとウッズしか思いつきません。
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