カズオ・イシグロ原作の映画「日の名残り」はこれぞ映画と言いたくなる傑作だ

まず、いかにもイギリス的なこの映画の原作がカズオ・イシグロであることに驚く。
イギリスの貴族の暮らし、それに仕える執事Butlerという世界は日本人には馴染みが薄いものだが、そういう世界をカズオイシグロが描けることが凄いことだと思う。
また、知らない世界のことなので、それだけに興味深く見ることができる。
執事・スティーヴンスのアンソニー・ホプキンス
女中頭・ミス・ケントンのエマ・トンプソン
ダーリントン卿のジェームズ・フォックス
の演技は見事というしかない。
特にアンソニー・ホプキンスの顔(表情)の演技は、禁欲的、自己抑制的に生きる執事の内面をうかがわせて、余りにも映画的で素晴らしいものだった。これを見るだけでこの映画を見る価値がある。
またこの映画は変種のラブ・ストーリーとも見れるのだが、その恋心の表現は抑えて、抑えて・・・それが逆にドキドキする。
スティーヴンスが本を読んでいるところにケントンが来て「何の本を読んでいるの?」と聞くシーンがある。スティーヴンスは答えない。
ミス・ケントンは「ワイセツな本なの?」とからかう。
スティーヴンスの顔。
余りにも隠すのでケントンはすぐそばに来て、本を持つスティーヴンスの指を1本1本はがしてゆき、その本を見る。 するとそれは感傷的な恋愛小説だった。
スティーヴンスは「教養を高めるために色んな本を読むのです」みたいな弁解をする。
二人の間に漂うちょっとあやしい雰囲気。だが、それだけ。何もない。
ジェームズ・アイヴォリー監督が描く〈The Remains of The Day〉は完璧過ぎて、もうカズオ・イシグロの原作を読む気になれないのが欠点かも?。