映画「髪結いの亭主」(パトリス・ルコント監督)・テーマは性と生と死

12歳の少年アントワーヌは太った女が一人でやっている床屋に通いつめる。
「女は赤毛だったので体臭が強烈だった」などと呟きながら、その臭いと垣間見える乳房に恍惚としている。
少年の夢は「女の床屋と結婚すること」になる。
それから何十年、中年になったアントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)は、あらゆる意味で理想的な女の床屋を見つけ、すぐに求婚する。
驚いたことにすぐに受け入れられ、幸せな生活が始まる。
女が経営する理髪店に男が移り住み、日がな働く女を見つめるだけなのである。
女を演じるアンナ・ガリエナが素晴らしい。
撮影当時36才。見事な肢体。顔もエロティック。
この理髪店の空間では何をしても許されるという満足感と恍惚。
実際、客に対して仕事をしている女の後ろに回って、両手で乳房を揉んだり、スカートの中に手を入れパンティを下して頬ずりしたりするシーンさえある。
夜オーデコロンで変なカクテルを作って飲み、セックスをする。
男が「今世界中で女に入れている男は何人?」などと言い、女は「一万人、だけど私が一番幸せ」と答える。
このあたりから、この幸せは永遠には続かないという喪失の予感が漂い始める。
店に来る客を見て「老い」を感じ、それを語るシーンなどがその伏線に見える。
そう、この映画のもう一つのテーマは「老い」なのだ。
理髪店を女に譲った今は養老院で暮らすホモ・セクシュアルの元店主の存在も老いというものを暗示している。
そう言えば、女は早い時期に「愛してるふりだけは絶対にしないで・・」と言っていた。
ラストについては何も書きません。
なお、アントワーヌが子供のころからやっていて何度も繰り返される、アラブの音楽をかけて自己流のベリーダンスを踊るという趣味(?)は生理的に好きになれない人もいるかもしれないと思う。
◎全てが夢の世界を描いた映画だという気もする。
◎またフランス映画以外ではあり得ないという気もする。
こんな映画を作ってしまうこと自体がすごいことかも。