映画「ドライブ・マイ・カー」の原作である村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」について
映画「ドライブ・マイ・カー」がカンヌで脚本賞はじめ4冠を獲り、ゴールデングローブ賞も、そして本年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞(旧外国映画賞)の4部門にノミネートされたことで話題になっています。(日本映画の作品賞ノミネートは初めて。黒澤明の「乱」は監督賞、是枝裕和の「万引き家族」は国際長編映画賞でのノミネートでしたーーいずれも受賞していません)
アカデミー賞での外国映画の作品賞受賞は一昨年の韓国、ポン・ジュノ監督の「パラサイト・半地下の家族」での受賞が記憶に新しいところです。(ポン・ジュノはずっと注目していた監督だったので、嬉しいニュースでしたが「パラサイト」という作品は必ずしもポン・ジュノの実力満開の傑作とは思えませんでした)
さて「ドライブ・マイ・カー」ですが色々と話題になる要素が溢れているようです。
私(筆者)は村上春樹の原作は読みましたが、映画の方はまだ観ていないことをお断りします。
(もちろんこれから観るつもりですが、まずは原作小説やその周辺のことがらを再確認したいと思いこれを書いています)
このタイトル、もともとビートルズの楽曲ということは知ってある方にはもちろん常識でしょう。
ビートルズ5枚目のアルバム〈Rubber Soul〉に入っていました。
まずはそれを聴きましょう! 村上春樹もこの曲が好きだったはずです。小説のタイトルにするくらいに。
村上春樹の小説のタイトルと映画化
村上小説のタイトル
村上春樹の小説の題名には長編、短編にかかわらず音楽のタイトルからの引用が多いのは有名です。
ビートルズ関連では有名な「ノルウェーの森」、そして今回の「女のいない男たち」にも「イエスタディ」という短編があります。
*「イエスタディ」については発表時にその曲の歌詞の問題でビートルズ・サイドからクレームがあり、不本意ながら単行本では一部書き換えたことを「まえがき」で村上氏自身が書いています。
そのほかジャズのスタンダード曲からの引用タイトルでは「中国行きのスロウ・ボート」、「国境の南、太陽の西」、「神の子供たちはみな踊る」などがあります。
筆者はもちろん村上春樹の全ての長編・短編集を読んでいます。
村上作品の映画化
村上作品で映画化されたのはーー
●まず処女作「風の歌を聴け」ーー何分にも古い事なので、ヒカシューの巻上公一が出ていたことしか憶えていません^^
●続いて「ノルウェーの森」これは映画を観たいという気持ちが一回も起こったことがありません。よって観ていません。これからも観る気はありません。(直子と緑・・・観たくないですねぇ)
●「トニー滝谷」:割合良くできた映画だったと思います。(イッセー尾形と宮沢りえという配役には異論もあると思います) それより筆者が一番不満だったのは、この作品のキモの一つであるトニー滝谷の天職ともいえる細密画(多分レンダリングと呼ばれるようなイラスト)のシーンを全く見せてくれなかったことです。見せようと思えばたやすい事だった筈なのにそこが不満でした。
●「ハナレイ・ベイ」(短編小説集「東京奇譚集」収録)ーーこれが筆者は一番楽しめました。
吉田羊を主演に起用したのは冒険だったかもしれません。他の女優で随分イメージが変わる映画になったかもしれません。
不満はハワイで知り合う日本人サーファーの若者二人のセリフ(演技)がド素人レベルだったことです。この失態は何だったんでしょうか?
*あと外国人による映画化がいくつかあるようですが、言及する必要はないと思われます。
短編小説集「女のいない男たち」
村上春樹の短編小説集「女のいない男たち」の単行本の第一刷は2014年4月20日に出ています。
なおこの後には短編小説集としては「一人称単数」が2020年に出ています。
それぞれの作品の初出は右側に書いてあり通りです。
目次です。
今は文庫本が出ています。
筆者がこの短編集所収の作品で好きな順は次のようになります。
木野>ドライブ・マイ・カー>独立器官>シェラザード>イエスタディ>女のいない男たち
「木野」は村上の過去の名作群に匹敵する佳作だと思いましたが、その他の作品はいま一つ物足りなく、
例えば「東京奇譚集」のようなあるいは「神の子供たちはみな踊る」のような短編集全体に統一感のある感動があった訳ではありませんでした。
とは言ってもその後の「一人称単数」の失望に比べれば良くできた短編集だと思いました。
*長編に至っては「騎士団長殺し」という作品(2017)への深い失望で「決別宣言」まで書いてしまいました。⇒さらば村上春樹・「騎士団長殺し」を読んで、もうあなたの長編にお金を出して読もうとは思いません
映画を観ることを愉しみにします。
これに限っては(時にあるように)「読まない方が良かった」とはならないと思っています。