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「マンガこそが日本が世界に誇る最高の文化である」と主張する人・呉智英のマンガ論

 
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団塊世代ど真ん中です。 定年退職してからアルト・サックスを始めました。 プロのジャズサックス奏者に習っています。 (高校時代にブラスバンドでしたけど当時は自分の楽器を持っていませんでしたので、それっきりになりました) 主にジャズについて自由に書いています。 独断偏見お許しください。

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マンガについて書かれた本を紹介します。

呉智英の「現代マンガの全体像」です。

最初にお断りしますがこの本が書かれたのは1986年のことです。

32年も前に書かれた「現代漫画論」なのです。

私が持っている文庫本は1997年に文庫化されたものです。(1990年に出た「現代マンガの全体像・増補版」を文庫化したと書いてあります)

この文庫本の裏表紙に次のように書かれています。

「マンガこそが日本が世界に誇る最高の文化である」と著者は言い切る。
だからこそ本格的なマンガ論の出現が待たれていたのだ。
洪水のように出版され続けるマンガ出版物について、俗論ばかりが語られてきたが、本書の刊行を画期としてマンガ評論の流れは明らかに変わった。
海外にも知られた、論争的にして威風堂々の現代日本マンガ論。

・32年も前に書かれた本なので、新しいマンガも作家も出てきません。

・それでも、このマンガ論は今でも有効です。

・初めて書かれた正当なマンガ論だからです。

マンガに関わる方は一度は読むべきマンガ史~マンガ論です。もちろんただのマンガ好きも!

著者:呉智英のこと

1946年生まれの評論家、著述家

名前の読みは くれ・ともふさ または ご・ちえい (どちらでもいいと本人が言っています)

Wikipediaでは呉智英の仕事の詳細が書いてありますが、次の一節を呉の思想を端的に表すものとして引用します。

2006年11月26日付の産経新聞で、いじめ問題について「被害者が自ら死を選ぶなんてバカなことがあるか。死ぬべきは加害者の方だ。いじめられている諸君、自殺するぐらいなら復讐せよ。死刑にはならないぞ、少年法が君たちを守ってくれるから」と発言し、物議を醸した。この発言は「死刑を廃止して仇討ちの復活を」という、呉のデビュー以来一貫した主張に基づくものといえる。

やや過激に思える発言が多い呉智英氏ですが、良く読めば言っていることは至極まっとうです。そういう人が書くマンガ論なのです。

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現代マンガの全体像

本は3部からなっています。

第1部 現代マンガの理論

第2部 現代マンガ概史

第3部 作家論・作品論

第1部でマンガについての基本的な考察が書かれています。
そして著者のマンガ論、マンガ観が述べられています。

第2部はマンガ史。
ありとあらゆる資料を点検し、日本におけるマンガの歴史を掘り起こし、豊富な図版とともにマンガの歴史を展望できる作りになっています。
少年マンガからギャグマンガ、成人マンガ、エロマンガに至るまで漏れはありません。

唯一記述が少ないのは少女マンガというジャンルです。
そのことは呉智英の責任というより、まだ少女マンガの時代がきてなかったことによるものと思われます。
それでも萩尾望都、竹宮恵子、里中満智子などの名前は紹介されています。

内田春菊は少女マンガかどうか難しいですが、ギリギリで間に合わなかったと思います(「南くんの恋人」発表が1987年です)ーー筆者は1990年頃に「今月の困ったちゃん」という本で内田春菊と呉智英の対談を読みました。

*この本は今読んでも、かなり面白いです。

1部、2部は今となっては、この時点で纏められた貴重な資料と言えるものですが、
圧倒的に面白いのが、第3部 作家論・作品論 です。
この3部について書いてゆきます。

第3部 作家論・作品論

1部、2部でも当然のことながら、たくさんのマンガ家について書かれているのですが、この第3部で特に20人のマンガ作家をピックアップして、
その作家について、その代表作について(もちろん書かれた時点までの作品ということになりますが)詳しく述べられています。

各マンガ家の絵が数コマづつですが載っています。
これによって知らないマンガ家でも、「あっ、このマンガか!」とわかることになります。

ところが、このブログではマンガ家の「絵」を紹介することは原則的に困難です。
20人を列記したあとで、2人のマンガ家についてだけ、引用を中心に紹介させてもらいますが、その二人だけは1枚の絵を引用することにします。

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20人のマンガ家

呉智英が特別に選んだ20名は以下です。

1.手塚治虫

2.山上たつひこ  「がきデカ」

3.楳図かずお

4.白土三平  「カムイ伝」

5.水木しげる  「ゲゲゲの鬼太郎」

6.藤子不二雄

7.谷岡ヤスジ

8.ちばてつや

9.中沢啓治  「はだしのゲン」

10.花輪和一

11.ひさうちみちお

12.蛭子能収

13.近藤ようこ

14.小林よしのり

15.諸星大二郎

16.はるき悦巳 「じゃりン子チエ」

17.いしかわじゅん

18.大友克洋

19.いがらしみきお

20.畑中純  「まんだら屋の良太」

この20人のリスト、どう思われたでしょうか?

知っている作家も知らない作家もあったと思います。
全部知っているという方はかなり年配であり、マンガ好きな方でしょう。

やはり「絵」を見せられないことが致命的に残念です。

一部の作家に作品名を書きましたが、「代表作」を書くことが適切であり、
識別しやすくなると思われる人に限りました。

手塚治虫の、ちばてつやの代表作なんか書けませんよね。

20人に入れられなかった作家

ところで、何故入ってない?と思う作家が何人かいます。

二人の名前を書きますが、勿論1部、2部では触れられています。

20人に入れなかったとしても呉智英にとって重要では無いという意味ではないと思われます。
むしろ、挙げたいのだが、挙げられない、と思われるくらいです。

・つげ義春

・吾妻ひでお

の二人です。

◯つげ義春は「つげ義春論」が数多く出ているせいかも知れません。
筆者が青林堂(「ガロ」を出していた会社)から出た箱入りの「つげ義春作品集」の第4版を買ったのは1970年のことでした。
その後のつげの作品もずっと追いかけることになりました。

 

◯一方、筆者の愛読マンガ書「失踪日記」の吾妻ひでおは1969年デビューで「不条理日記」は1978年発表ですから、当然呉智英の視界には入っているのですが、本書では深追いされていません。

*数々の賞に輝いた「失踪日記」は2005年初出ですからずっと後のことになります。

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●さて20人の中から筆者が取り上げるのは限定2名、はるき悦巳と蛭子能収です。

はるき悦巳

はるき悦巳は「じゃりン子チエ」という代表作があり、これはアニメ化もされているので知ってあると思います。

 

出典:CD Journal
https://www.cdjournal.com/main/news/takahata-isao/65943

呉智英もこの作品のことを書いています。

2箇所から引用します。
最初は「じゃりン子チエ」の説明の箇所

主人公は小学生の少女チエ。その父テツは、乱暴でおっちょこちょいの好人物。これといって仕事をせずぶらぶらしているがヤクザではない。それどころかヤクザと警察がこの世で一番嫌いなのである。時々思い出したように家業のホルモン焼き屋の仕事をするが、ほとんどは怠けている。その尻拭いは少女チエがするわけである。しっかり者のチエは怠け者の父を叱咤しつつ、やさしく美しい母とともに店を切り盛りし、そのあいまに、学校でキザな優等生と喧嘩をしたり、親友のどんくさい少女ヒラメちゃんと遊んだり、猫たちの相手をしたりするのである。これら登場人物が、みんなそれぞれユーモラスに描かれ、軽妙な大阪弁や柔らかな親しみやすい描線と相俟って人気を博してきた。

長々と引用したのは訳があります。

途中、この作品に「暗さが漂っている」と指摘し、「この暗さがあるからこそ、明るさが単なる能天気にならずに済んでいる」と分析する。

そしてこのはるき悦巳「じゃりン子チエ」に関する4頁の文の最後は次のように終わっています。

「じゃりン子チエ」の父テツは、健康であるのに何故定職に就かないのか。
ヤクザ同然でありながら、何故ヤクザを嫌い、しかも警察をも嫌うのか。
考えられる妥当な答えは、彼が被差別部落民だからである。
チエの親友ヒラメちゃんはおそらく朝鮮人だろう。キザな優等生が二人をいじめるのは、二人とも市民社会の疎外者だからである。
彼らは、楽天的な告発者のように声高には語りたがらない。そうした下町の庶民の姿を生き生きと、はるき悦巳は描いているのである。

・・・・・

このあたりの切れ味、ずばりと本質を書いてしまうところが、最も呉智英らしいところだと思います。

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蛭子能収

 

蛭子能収(えびすよしかず)さんは、今はちょっと変なおじさんタレントとして知られているかもしれません。

 

出典:日本タレント名鑑

蛭子さんの絵は全て保護されているようですので、アマゾンの本の表紙で見てもらうしかありません。こんな絵ですね。

◯蛭子さんは、変な発言、とんでもないことを言うことで有名ですが、筆者もテレビで蛭子さんの言うことで驚いた記憶があります。

亡くなった奥さんと、一緒に出ていましたからかなり前のことです。

蛭子さんの奥さんは、呉さん流にはっきり言えば、かなりのブサイクでした。身体つきも同様です。

蛭子さんは、奥さんを横にして、真面目な顔でこう言いました。

蛭子能収
私はね、この女を抱くんですよ。

・・・・

テレビでこんなことを言う人は前代未聞でしょう。蛭子さん、何を訴えたかったのでしょうか?

奥さんは横で笑い顔でした。

◯そんな蛭子能収の作品、呉智英は「無意味という意味」という副題をつけています。

紹介されているのは短編集「私の彼は意味がない」

この中の「そして誰も考えなくなった」を例に挙げ、詳細に説明しています。

呉智英による要約を引用します。

山の中の湖を二人の男がボートで渡っている。二人は会社の平社員と課長である。二人の会話によれば、ただでやらせる美女がいるので、平社員が課長を連れて行っているのだと知れる。しかし、こんな山の奥にそんな女がいるのは変である。課長も変に思うが、平社員は自信をもって案内して行く。やがて、町の中にあるような立派な家が現れる。二人が中にはいると、何人もの男たちがソファの腰かけて順番待ちをしている。課長はやっと平社員の言うことを信じる気になる。そしてどんな美人なのか寝室を覗いてみる。ベッドの上で順番の早かった男と性交している女は、なるほど美人である。しかし、なぜそんな美人が、しかもただでやらせるのか。なぜなのだ。課長には不可解である。なぜだと呟く課長に平社員は言う。「課長さん、考えても無駄ですよ。列の後ろで順番を待ちましょう」。そして並んでいる男たちを指さして言う。「見てごらんなさい。誰も考えてないでしょう」。たしかに、並んでいる男たちは何も考えていないのだった。

こうして要約を書いていてもそのナンセンスさは伝わるにしても、やはり「絵」がないとダメという気がします。

呉智英の解読から引用です。

・彼のマンガに描かれていることはデタラメではない。ちゃんと筋が通っていて、しかも全く無意味なのである。

・この無意味さは、夢の無意味さに近い。
蛭子能収のマンガを読むと、悪夢に襲われるように無意味に襲われるのだ。

・蛭子能収自らが好きな好きなマンガ家として挙げるつげ義春の「ねじ式」に近いものがあるかもしれない。
つげに純文学臭が感じられるのに対して、蛭子にはそうした臭いが全く感じられない。あっけらかんと思われるほど非文学的なのだ。但し、その裏に、文学者に代表される知識人に対する挑発がうかがわれないでもない。
知識人が蛭子能収を意味によってからめ取ろうとすることへの無意味によるカウンターパンチのようなものがほの見えもするのである。
そうだとすれば、なかなかしたたかな作戦も持っていることになる。

「無意味という意味」を説明することはなかなか難しいことですね。
やはりそこがマンガの力でしょう。マンガでないと表現出来ない世界があることを蛭子能収は証明していることにもなります。
しかし、蛭子さんは存在自体がかなり逸脱した人のようです。存在自体が時代へのカウンターパンチ? いやいや本人はそんなつもりは全く無いと言うことでしょう。

まとめ

挙げられた20人のマンガ作家について、すべて知ってるわけではありません。

二人だけについて引用を中心に書きましたが、引っかかる作家は他にもいます。

大友克洋 「童夢」は繰り返し読んでいます。AKIRAは童夢の延長線上の作品と言えるでしょう。

ひさうちみちお ・・・・一応「理髪店主のかなしみ」を挙げます。もっと多様な作品があるのですが。

谷岡ヤスジ ⇨ この人のマンガの衝撃は凄かったです。ギャグマンガという一番難しいジャンルであれだけ長く活躍したことは驚異的です。赤塚不二夫と並ぶ天才と言われます。

「バター犬」の生みの親^_^

出典:谷岡ヤスジHP
http://taniokayasuji.jp/index.html

●最後に「ガロ」というマンガ雑誌が果たした役割の大きさを感じます。

その原稿料の安さでも有名でしたが、この本に登場する作家でも「ガロ」のお世話になった人が実にたくさんいます。

*マンガについて書くことの難しさのため理屈っぽくなりました。

そういう意味でも、呉智英氏のこの本は労作と言えます。
呉智英氏ほどマンガについて巾広く、深く、書ける人は他にいないでしょう。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

 

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