NARDISというジャズの名曲、マイルスの作曲ですがビル・エヴァンスが育てた曲と言えるでしょう
NARDIS(ナーディス)
この言葉は造語で意味はないと思われます。〈LEXUS〉みたいなものですね。
NARDISは、キーボード奏者BenSidranの姓Sidranをひっくり返したものでマイルスからシドランに贈られたとのこと。なるほど。マイルスがやりそうなことです。
しかし、マイルスとどちらかと言えばフュージョンよりのシドランの関係は全く知りませんでした。
マイルス・デイヴィスの作曲です。
*このタイトルは言葉遊びが好きなマイルスらしい名付け方と思います。
しかしマイルス自身はこの曲を演奏していません。
この曲はビル・エヴァンズによって繰り返し演奏されました。
それによって名曲として認められるようになったというのが筆者の考えです。
キャノンボール・アダレイ
1958年 キャノンボール・アダレイのアルバム〈Portrait Of Cannonball Adderley〉の中で初めて演奏されました。
この時のメンバーは
Cannonball Adderley (alto sax)
Blue Mitchell (trumpet)
Bill Evans (piano)
Sam Jones (bass)
Philly Joe Jones (drums) でした。
まず、その演奏を聴きます。
聴かれて分かるように、脱ハードバップを目指したようなモーダルな雰囲気が漂う曲です。ちなみに録音された’58年は〈Kind Of Blue〉の前年です。
しかし、この曲が真に認められるにはビル・エヴァンス・トリオの演奏が必要でした。
ビル・エヴァンス
●ビル・エヴァンスの1961年のアルバム〈Explorations〉で演奏されました。
例のスコット・ラファロ、ポール・モチアンのトリオです。
●譜面もありましたので、参考のためにアップします。
そしてエヴァンスは機会があるごとに繰り返しこの曲を演っています。
キャノンボールの初めの演奏からエヴァンスが参加していたことも考えると、これはエヴァンスの曲ではないか?と思えてくるのですが、その辺の詮索は止めておきましょう。
●実は有名なこのアルバム↓でも〈NARDIS〉は演奏されていました。
●ここでもう1回聴きたいのはエヴァンスが亡くなる1年前、1979年のParis Concert での演奏です。
ラストトリオ(マーク・ジョンソン:ベース、ジョー・ラバーベラ:ドラムス)の演奏です。
17分半の長尺ですが、’79年のエヴァンスがいかにその演奏を進化、深化させていたことかが分かります。(命懸けの演奏です)
このNARDISはこの曲の決定的な演奏だと言って間違いないでしょう。
The Paris Concert Edition Two Recorded by Radio France at L’Espace Cardin in Paris, France Nov.26, 1979
チェット・ベイカー
実は、この曲を好んで演奏したもうひとりが晩年のチェット・ベイカーでした。
このアルバム、ペット、ピアノ、ベースという変則トリオで演奏されています。玉石混交のヨーロッパでの晩年のチェットの演奏の中では光る玉です。
Chet Baker (trumpet&vocal)
Jean-Louise Rassinfosse (bass)
Michel Graillier (piano)
●非常に美しい演奏です。
(ベイカーに残された時間もあと3年でした。)
ジョー・ヘンダーソン
先鋭的なテナーサックス奏者、ジョー・ヘンダーソンが「やはり」という感じでこの曲をやっています。
厳選されたメンバー(グラチャン・モンカーを入れるなど)で密度の高い演奏を繰り広げています。
エヴァンスとは違う意味でこの曲を深化させています。カッコいいです。
Joe Henderson: tenor saxophone
Mike Lawrence: trumpet
Grachan Moncur III: trombone
Kenny Barron: piano
Ron Carter: bass
Louis Hayes: drums
アルバムは〈The Kicker〉でした。
フィリップ・カテリーン
ヨーロッパのギタリストで晩年のチェット・ベイカーとも良く共演をしていたフィリップ・カテリーンが、録音したアルバム〈I Remember You〉でNardisが演奏されていました。
ギター、フルーゲルホーン(トム・ハレル)、ベース(Hein Van De Geyn)という変則トリオでした。
ペット(フルーゲルですが)がメロディを吹き、ギターが和音をつける演奏が却って新鮮に感じられます。そこにベースが絡むためこの曲の美しさが際立つことになっています。
●参考音源
この演奏をしている二人がどなたかは存じ上げませんがギターとベースの2つだけで、上のカテリーンの演奏のようなことを試みていて参考になります。
ケニー・バロン&ブラッド・メルドー
さて最後にします。現代のピアニスト二人が演奏している動画。
ケニー・バロンとブラッド・メルドーです。
イタリアのUmbria Jazz Festivalというジャズ・フェスでの記録です。
*コンプリートバージョンしかありませんので、それをアップします。
Nardisは39分56秒からです。
All Blues 0:28
Black Orpheus 10:18
Billie’s Bounce 20:03
There Is No Greater Love 27:14
Nardis 39:56
Softly As In A Morning Sunrise 48:04
この曲は和音の響きを愉しむようなところがありますから、こうして2台のピアノで複雑に絡み合う音の饗宴もまたとても面白いものに感じられますね。
まとめ
初演の時には何か不思議な曲というだけであったのが、こうして演奏されてゆくうちに洗練されてゆき、非常に魅力的な曲になってゆく過程を見る思いがしました。
その洗練化を初めたのは(間違いなく)ビル・エヴァンスでした。
いまでは曲の初めのタ・ターンという和音が素晴らしいものであるとみんな思っています。
そして最後のバロン=メルドーで分かるように今ではピアニスト(あとはギタリストーつまり和音楽器)のための曲のようになってきているようです。
キース・ジャレットやチック・コリアもやっているのですが、音源がありませんでした。(いずれもECMレーベルだからだと思います)
あとリッチー・バイラークもやっているようです。
演奏される時には当然のことにMiles Davisの名前がクレジットされます。
しつこいですが、こんな和音のためのような曲を単音楽器であるトランペット奏者が作ったことは不思議なことに感じられてなりません。