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「小澤征爾さんと、音楽について話をする 」村上春樹、は絶対文庫本を読むべき(大西順子のための追加章がある)

 
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団塊世代ど真ん中です。 定年退職してからアルト・サックスを始めました。 プロのジャズサックス奏者に習っています。 (高校時代にブラスバンドでしたけど当時は自分の楽器を持っていませんでしたので、それっきりになりました) 主にジャズについて自由に書いています。 独断偏見お許しください。

(はじめに)

この本は勿論クラシック音楽について書かれた本ですが、文庫化にあたり1章が追加されたことにより、ジャズファンにも興味深いものになりました。【というか、もともとジャンルに関係なく全ての音楽ファンに向けて書かれた本でした】

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「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮文庫)by村上春樹 を読みました。

 

この本、初めに単行本が出たのは2011年なのですが、

私が読んだ文庫本は2014年7月に出ています。

で、今から読まれる方には絶対文庫本の方がおススメです。

文庫本で追加された、ジャズピアニスト大西順子のための1章

 

なぜなら文庫本には最後に
 松Gig 2013・厚木からの長い道のりー小澤征爾が大西順子と共演した『ラプソディー・イン・ブルー』

という一章が追加されているからです。
ジャズが好きな私は、この追加された一章をまず先に読みました。

ですからこの追加された大西順子について書かれた章のことから書くことにします。

◎大西順子 (ジャズ・ピアニスト)、 1967年4月16日生まれ。

 

  • 2012年 8月20日 、大西は10月22日からの国内ツアー終了を以て、プロ演奏家からの引退を表明。
 ◎厚木の小さなジャズクラブで大西順子トリオの最後の演奏があった。

 小澤征爾と村上春樹は一緒にこれを聴きに行ったそうです。

最後に大西の感無量の面持ちで『残念ながら、今夜をもって引退します』という宣言がされた時、小澤征爾が突然すくっと立ち上がって『俺は反対だ!』と叫ぶというハプニングが起こる。

そんなことがあった後、村上春樹が発案し、小澤征爾が「それだ!」と同意して、2013年松本での、小澤征爾氏のサイトウ・キネン・オーケストラと大西順子の競演ギグが実現するまでの顛末が語られる。

ところが、大西順子は東北震災の義援金にするため、手持ちの楽器はオークションで売り払ってしまう。(「やることが極端」と春樹さんがコメントしている(笑))
もう練習できる場所もない。ピアノをレンタルしたり、スタジをを借りるような資力もない。
生活してゆくためのアルバイト(音楽とは全く無関係)も既に見つけた。

と言って初めは、小澤氏のオファーを断るのだ。

 

結局は、実現した2013年松本での大西順子とサイトウ・キネンの共演〈ラプソディー・イン・ブルー(ガーシュイン)〉↓

すばらしい、感動的な、「音楽」ですね!

サイトウ・キネンと黒人ジャズ・ベーシスト・ドラマーが同じステージに登るのは前代未聞のことだと思います。

*ベースのレジナルド・ヴィールは長く大西順子とやっている人です。

松本ギグは大成功に終わるのですが状況に変わりはありません。

村上春樹の次の一文がこの状況に強く訴えるものになっています。

『どこかの音楽大学なり教育機関なりがこの女性ピアニストに落ち着いて後進を育成し、場合に応じて自分の演奏をも追求できるような、安定したポストを提供するべきなのだ。
 僕は心からそう思う。 彼女は若いミュージシャンたちを指導することに、とても強い興味と意欲を持っている。
また今回の松本の「ジャズ勉強会」で彼女が残した実績が、彼女の教育者としての能力を見事に証明しているはずだ。
年若いピアニストたちの短期間における見事な成長ぶりに、みんなが(小澤さんをを含めて)舌を巻いた。

この人をーー日本が誇りとするべき傑出したジャズ・ピアニストをーーアルバイト探しに走り回らせているような日本の音楽状況に対して、僕は不満と怒りを覚えないわけにはいかない。

「そんなのは間違っている!」と僕は小澤征爾さんにならって、ここで立ち上がって大声で叫ばなくてはならない。』

村上春樹の文としては珍しい程「熱い」文章です。

カズオ・イシグロとの会話のエピソードなど

この章の最初は村上春樹が英国人の作家カズオ・イシグロと東京で会って食事をするエピソードから書き始められている。イシグロはちょうど長編小説を書き上げたばかりで、あとは出版を待つばかりという時期だったとのこと。

その時音楽の話から、ジャズの話になって村上春樹が「日本にジュンコ・オオニシという素晴らしいピアニストがいるんだよ」と言う。
「高い音楽性と、見事なリズム感を持っている。彼女は本物だよ」と。

イシグロが興味を持ったようなので、村上は後でイシグロが泊まっているホテルまでオオニシの新しいCDを届ける。

数か月後イシグロの新作長編が出版され、そのタイトルを見て村上は息を呑む。その本のタイトルが「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」だったからだ。 

『僕がイシグロにプレゼントした大西順子のCDの中にも「Never Let Me Go」が含まれていた』

どのCDかは書かれていないが、私は大西順子が出したCDはほとんど持っているので勿論どのCDか分かります。 これです。↓

 

 

他にも、村上春樹がボストンに滞在していた時に、ジャズピアニスト、ダニーロ・ペレスと大西について会話したエピソードなども書かれています。
実は、ペレスは大西がバークリー音楽大学にいた時に指導した先生だったというのです。

Never Let Me Go という曲 の色んなバージョンについてはこちらに書いています。
https://enjoyjazzlife.com/never-let-me-go

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小澤征爾×村上春樹 

 

 

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村上春樹という作家は、音楽と共にあると言っていいほど、音楽を愛していてその多くの小説の中にもあらゆる音楽が登場します。
クラシック、ジャズ、ポップス。中でもジャズについては何冊かの著作がありますからその知識は半端なものではないことは知っていました。

しかし、クラシック音楽について、マエストロ小澤征爾とここまで詳しく、突っ込んだ会話が出来るほどの知識とクラシック音楽経験があるとは思っていませんでした。

私などは聴いたこともない音楽について語り合う二人の音楽談義を非常に興味深く、楽しく読むことができました。

特にグレン・グールドのことや(さすがにグールドのCDは少し持っていますが) カラヤンそしてレナード・バーンスタイン(小澤氏はレニーと呼んでいます)についての話はクラシック音楽ファンでなくとも楽しく読めるものになっています。
 読んでいると、語られる音楽が聴きたくなります。

そういう要望に応えるために、二人の会話を追体験するCDが発売されているそうです。

 

世界に誇る音楽界の巨匠と文芸界の巨匠、二人が語り合った至福の時間を体験する。
小澤征爾と村上春樹による対談本『小澤征爾さんと、音楽について話をする』(新潮社刊)に登場した音楽を3枚のCDに収録。
二人が実際に耳にした音楽を聴きながら、二人の会話をより親密に感じることのできる内容になっています。

ブックレットには村上春樹書き下ろしのライナーノーツを収録!

指揮者・小澤征爾がこれまで録音してきた数々の名曲たちや、特に印象に残った作品をCD3枚組にまとめたコンピレーション・アルバム。2013年3月末に開催される「小澤征爾音楽塾」の公演に合わせてリリース。 (Amazonより)

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「まえがき」について

順序が前後しますが、この本には長めの「まえがき」があります。

村上春樹の(長編小説を除く)著作には、大変面白い「まえがき」があることが多く、それを読むことも村上作品を読む楽しみの一つです。

この本の「まえがき」も読みごたえのあるもので、端的に「この本がどんな本であるか」を要約したものになっています。

 その中でデューク・エリントンの有名な言葉が紹介されています。
「世の中には『素敵な音楽』と『それほど素敵じゃない音楽』という二種類の音楽しかない」

このエリントンの言葉に続けて村上春樹が次のように書いています。

「ジャズであろうがクラシック音楽であろうが、そこのところは原理的には全く同じことだ。『素敵な音楽』を聴くことによって与えられる純粋な喜びは、ジャンルを超えたところに存在している」

「小澤さんが少しでも長く、『良き音楽』をこの世界に与え続けてくれることを、僕は心から希望している。『良き音楽』は愛と同じように、いくらたくさんあっても、多すぎるということはないのだから。
そしてそれを大事な燃料として取り込み、生きるための意欲をチヤ-ジしている人々が、この世界には数えきれないほどたくさんいるのだから」

*下線は筆者による

このように、ナイーブと言えるほどの文章で「音楽愛」を表明しています。

 

スイスの小さな町で

2人が会話する、作曲家とか、音楽家とか作品について、私は語ることはできません。その知識も能力もないからです。

しかし最後の章の前に置かれた「スイスの小さな町で」という文章が非常に印象が残りましたので、少し触れてみます。

スイスのレマン湖の湖畔、モントルー(ジャズ・フェスで有名な地です)の近くのロールという小さな町で毎年夏に、小澤が主宰する「小澤征爾スイス国際音楽アカデミー」という、若い弦楽器奏者のためのセミナーが行われているそうだ。今年で7年目と書いてあります。

参加しているのはヨーロッパ中から選りすぐりの若きエリートたちで、厳密なオーディションを通過した人たちだと言う。

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そこへこの年、村上春樹が「特別ゲスト」として参加したのだそうだ。
小澤征爾に「春樹さんも絶対に現地に来て、僕らがどんなことをやっているか、自分の目で見たほうがいいよ。そうすれば音楽の聴き方がきっと変わるから」と誘われたのだ。

何と言う幸せ!

そこで約10日間、村上春樹が目撃したのは、いかにして「良き音楽」が作られるのかと言うプロセスだった。
そこにはスパークがあり、マジックがあった」と書いている。

そのような体験ができることは、若きエリート奏者たちのとっても、また村上春樹にとっても、生きていることの幸せを感じる体験だっただろうと感じられた。

まとめ

村上春樹が書く音楽についての書物は必ずいち早く読んでいたのだが、この本に限っては、クラシック音楽についての本だからと後廻しにしていた。

読んだ結果は「もっと早く読めば良かった!」と思うものでした。

音楽のジャンルに関係なく「良き音楽」について書かれるものは同じように面白いのです。
それは勿論、村上春樹と言う人の「音楽への愛」と「書く力」に依ることは明らかです。

↑これは単行本(新潮文庫版もここから見れます)

また、この本に書かれた音楽を実際に聴けるように3枚組CDも出ています(私、買いました)

 

最後まで読んでくださってありがとうございました

 

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