村上春樹の新刊長編、そのタイトルから音楽に関係あると推理した:「騎士団長殺し」
村上春樹の新作長編の発売予定が発表されています。
村上春樹さん、新作は「騎士団長殺し」 2月出版
新潮社は10日、作家、村上春樹さん(67)の新作長編のタイトルが「騎士団長殺し」だと発表した。発売日は2月24日。新潮社によると、「第1部 顕(あらわ)れるイデア編」「第2部 遷(うつ)ろうメタファー編」の全2冊で、各1944円。英語のタイトルは「Killing Commendatore」という。
村上さんが複数巻にわたる長編小説を発表するのは2009~10年の「1Q84」(BOOK1~3)以来となる。
ーーーーーーーーー日本経済新聞電子版より
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Contents
表紙や過去作品から推理
表紙デザイン
このシンプルな表紙は一見「ねじまき鳥クロニクル」の表紙デザインに似ていますね。
しかし、これは仮の表紙でしょうね。
S は新潮社のマークだからこのままという訳はないですね。
もしこれをベースにするのであれば色をつけるのでしょう。上下で違う色ということも考えられます。
表紙デザインからはこれ以上役立つ情報はありませんね。
過去の長編をチェック
■新刊単行本で上下2冊というのは過去の長編では
・ノルウェイの森
・ダンス・ダンス・ダンス
・海辺のカフカ
の3作でした。
・ねじまき鳥クロニクル
・1Q84
は3冊の大長編でした。
■前の長編(2013年)が
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」 (文藝春秋)
だった訳ですが、この作品余り人気というか評判がよくなかったようですね。
私も1回目に読んだときはピンと来ませんでしたが、再読してこれは「面白い」小説だと思いました。
「ノルウェイの森」や「国境の南・太陽の西」の印象で、「村上春樹は恋愛を書くのがヘタクソだなぁ」と思っていたのですが、この作品で初めて読者が共感できる(心がひりひり痛む)「恋の形」を書いたと思います。
■一つ前の作品であれば、短編集「女のいない男たち」(2014年)でした。
これは全体的な印象として、暗い、陰鬱な印象を与える短編集だったと思います。(個人的感想です)
タイトルから推理
タイトルからいろいろ想像してみました。
「騎士団長殺し」 Killing Commendatore
変わったタイトル・・・はいつものことでしょう。
私の推理ですが、
このタイトル、最初に英語タイトルを決めてそれを日本語に訳したものだと思います。
そういうやり方は処女作「風の歌を聴け」からやっていることで、
本当かどうか疑わしいところもあるのですが、「小説全体をまず英語で書いてそれを日本語訳した」との本人の発言をどこかで読んだ記憶があります。
日本語⇒英語 だと
騎士団長⇒Chief of knight になりそうです。
■ところが commendatore と言う単語をネット翻訳に入れると
その日本語訳は
「コメンダトーレ Komendatōre」と表示されました。ん?
●久しぶりに大型の英語辞書を書棚から出して見てみましたが、 commendatore
は、ありませんでした。
類似語は
commend 褒める、推薦する
commendatory (↑の形容詞) 賞賛的、推薦的
程度です。
つまりこれは英語ではないようです。
●先ほど出た Komendatōreの方を言語自動検出 で入れると オランダ語と表示され、日本語訳は、ありませんでした。いろんな翻訳サイトで試しましたが、どうしても日本語が出ません。
「コメンダトーレ」という語感はイタリア語のような気がして、なりません。
イタリア語翻訳で試しましたがやはりダメでした。
commendatoreという言葉からの推理は一旦横に置くことにしました。
1部、2部のタイトルから推理
「第1部 顕(あらわ)れるイデア編」
「第2部 遷(うつ)ろうメタファー編」
ここから類推すると、顕れる、遷ろう は形容詞だから置いておくとして
イデア と メタファー なんですね。
理念 と 隠喩 ですか。
かなり哲学的な感じではあります。
音楽との関係から推理
これまで村上作品のタイトルには、音楽の名称を取り込んだものが多くありました。
中国行きのスロウ・ボート
ノルウェイの森
国境の南・太陽の西
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
などです。
前作と音楽のこと
前作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も
フランツ・リストの「巡礼の年」を含む(引用する)ものでした。
本文の中ではその中の「ル・マル・デュ・ペイ」が大きく取り上げられていました。 これです。↓
(*ただし本ではラザール・ベルマンのピアノ演奏となっていました)
音楽との関係を追求
今回の「騎士団長」という余り使われない言葉も音楽に関係ある気がしてなりません。
前作「色彩を持たない色多崎つくると、彼の巡礼の年」と似たような臭いを感じます。
ここで思いついて、さきほどの「コメンダトーレ」という言葉をWikipediaで調べると
イタリア共和国功労勲章 を指すことが分かりました。
イタリア共和国功労勲章(イタリアきょうわこくこうろうくんしょう、伊:Ordine al merito della Repubblica Italiana)はイタリア共和国の勲章。共和制移行に伴い1951年に制定された。共和国大統領をその長とする騎士団(ordine オルディネ)の形式をとり、各分野で功労のあった個人に対して大統領から授与される。国内のみならず、外国人にも積極的に授与されている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーWikipedia
(黄色マーカーは筆者)
ついに騎士団(オルディネ)という言葉に行きつきました!
Wikiのこの続きにこういう記述も発見しました。
等級は上から順に
- カヴァリエーレ・ディ・グラン・クローチェ・デコラート・ディ・グラン・コルドーネ(cavaliere di gran croce decorato di gran cordone)
- カヴァリエーレ・ディ・グラン・クローチェ(cavaliere di gran croce)
- グランデ・ウッフィチャーレ(grande ufficiale)
- コンメンダトーレ(commendatore)
- ウッフィチャーレ(ufficiale)
- カヴァリエーレ(cavaliere)
- コメンダトーレ(コンメンダトーレ)を発見しました。
- この言葉
- イタリア共和国功労勲章の4番目の等級のもの ということがわかりました。
そしてその〈コンメンダトーレ〉を受賞した日本人のリストに藤原義江などのオペラ歌手がいました。
モーツアルト「ドン・ジョヴァンニ」
イタリア→勲章→オペラ と来て、
ここで閃くものがあり、同じくWikipediaでモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」を調べました。
すると、以下の記述を見つけました。
(オペラ「ドン・ジョヴァンニ」の登場人物です)
- ●ドン・ジョヴァンニ Don Giovanni(バリトン)
- 女たらしの貴族。従者のレポレッロの記録によると、各国でおよそ2000人、うちスペインですでに1003人の女性と関係を持ったという。老若、身分、容姿を問わぬ、自称「愛の運び手」。剣の腕もたち、騎士団長と決闘して勝つほど。
(筆者追記:井原西鶴『好色一代男』の主人公が生涯に肉体関係を持ったのは女性3742人、男性725人の計4467人です^^) - ●レポレッロ Leporello(バス)
- ジョヴァンニの従者。ドン・ジョヴァンニにはついていけないと思っているが、金や脅しでずるずるついていってしまっている。ドン・ジョヴァンニから見ても美人の妻を持つ妻帯者だが、ドン・ジョヴァンニの「おこぼれ」にあずかり楽しむこともあるようだ。
- ●ドンナ・アンナ Donna Anna(ソプラノ)
- 騎士長の娘でオッターヴィオの許嫁。ドン・ジョヴァンニに夜這いをかけられ、抵抗したところに駆けつけた父親を殺される。
- ●騎士団管区長 Il Commendatore(バス)
- アンナの父。娘を救おうとしてジョヴァンニに殺されるが、石像として彼に悔い改めるよう迫る。
- ●ドン・オッターヴィオ Don Ottavio(テノール)
- アンナの許婚。復讐は忘れて結婚するようドンナ・アンナを説得しようとするが、果たせない。
- ●ドンナ・エルヴィーラ Donna Elvira(ソプラノ)
- かつてジョヴァンニに誘惑され、婚約するもその後捨てられたブルゴスの女性。始終ジョヴァンニを追い回し、彼を改心させようと試みる。元は身分ある女性だったようで、ドンナ・アンナたちも圧倒されるほど気品に溢れている。ドン・ジョヴァンニが食指を動かすほど美しい召使を連れている。
- ●ツェルリーナ Zerlina(イタリア語の発音ではゼルリーナ)(ソプラノ)
- 村娘でマゼットの新婦。田舎娘に似合わずコケティッシュでしたたかな娘。結婚式の最中にドン・ジョヴァンニに口説かれ、その気になる。
- ●マゼット Masetto(バス)
- 農夫。ツェルリーナの新郎。嫉妬深く、ツェルリーナの浮気な行動にやきもきするが、結局のところ、尻に敷かれている。村の若者のリーダー的存在。
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騎士団長と決闘して勝つ
の一言を見つけました!
その後に 騎士団管区長 Il Commendatore(イル・コメンダトーレ)
もあります。
日本語の騎士団長と、英語(あるいはイタリア語)の commendatore (コメンダトーレ) が
「ドンジョバンニ」で結びついた訳です。
まとめ
やはり村上春樹の新作は音楽を取り込むタイトルを持っていました。
もちろん、その新作の内容がどのようなものなのかは、全くわかりません。
しかし、
〈Killing Commendatore〉 というタイトルを持つ小説は、
モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」が作中に現れることだけは間違いありません。
その現れ方は前作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」と同じようなものになるのかもしれません。
〇 タイトルから、小説に出てくる音楽に辿りついたことで筆者は満足しています。^^
英語タイトルがなかったらここまで辿り着かなかったと思います。
私は随分と手間取りましたが、オペラに詳しい方ならタイトルを見ただけで、すぐに気付かれているのかも知れません。
●最後に村上春樹愛読者として、今度の新作長編が良い出来であって欲しいと心から思っています。
●前作が発表された後、リストの「巡礼の年」が良く聞かれるようになったそうです。
今回もまた、そのような現象が起こるのでしょうか?
■最後にラザール・ベルマンのピアノによる「巡礼の年」をアップさせて頂きます。
私はこの文でお分かりのように、クラシック音楽には詳しくない者ですが、この演奏がなかなか魅力的なものであることは、分かります。
Franz Liszt Années de pèlerinage, Book I (excerpts)
00:00 Chappelle de Guillaume Tell 06:53 Au lac de Wallenstadt 09:32 Vallee d’Obermann 23:53 Le Mal du Pays 29:23 Les Cloches de Geneve
Lazar Berman, piano Live recording, May 1972
最後まで読んで下さって、ありがとうございます。
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「騎士団長殺し」については、この後2記事書きました。
⇒村上春樹「騎士団長殺し」の第2部での「南京虐殺」の記述は不適切だ
⇒さらば村上春樹・「騎士団長殺し」を読んで、もうあなたの長編にお金を出して読もうとは思いません